Well-Being
介護難民のない社会と福祉ビジネス
介護福祉士/福祉ビジネスコンサルタント 井川視秩子


1.介護保険制度の特徴
 日本の介護保険制度は、平成9年に制定され、平成12年4月から施行された介護保険法により、新たなステージへと移行した。それまでの老人福祉法(昭和38年制定)や老人保健法(昭和57年制定)に基づいた、行政がサービスの対象者や内容を決定し提供してきた高齢者福祉、老人保険(医療保険)による措置制度から、市町村(または広域自治体)が運営主体となる『保険方式』のもとで、利用者が自ら事業者を選択して契約し、現物(サービス)給付を受ける、「高齢者の自立支援」を理念とした新制度となった。

出所:(財)社会福祉・医療事業団 http//:www.wam.go.jp


 この新制度は、介護費用から利用者負担を除いた給付金はのうち半分を保険料で、残りを公的資金によって賄うこと、要介護度の認定とランクごとの給付上限の設定、そしてケアマネジャーによるケアマネジメントの考え方の導入など、これまでには無かった制度的な特徴を持っている(図1)。また、これまでの「施設での介護」から「在宅での介護」への移行は、厚生労働省が最も重点を置いているところでもある。


2.介護保険の現状
 この運用も既に3年目を迎え、在宅介護への流れは確実に起きているように見える。


 国民健康保険中央会の統計データによると、在宅サービスの受給者の伸び率は、施設サービス受給者のそれと比べて、数値上10%以上も多くなっている。(表1)しかし、実際にその内情は、厚生労働省が目指す「在宅介護」社会とはまだまだ程遠いものとなっていて、その原因は、介護保険制度が提供し得る「サービスの質」そのものにあるようだ。
 例えば建物の面から見ていくと、介護保険適用と医療保険適用を持つ療養型医療施設がある。ここでは、実際に入院している患者の4割程度は、実はまったく入院が必要ではないというデータもあるようだ。結果として、その4割は行き先、つまり「介護」としての受入先を必要としている、俗に言う「社会的入院患者」とうことになる。介護保険制度の面から見ても、医療制度の面から見ても、今後この「建物(施設)」そのもの充実よりも介護のあり方の解決が早急に臨まれている。
  また、人的なケアの面からこの介護保険制度を見てみると、いまの在宅サービスの水準は、在宅介護を支える柱と期待されるヘルパーの待遇は悪く、また人材不足も深刻で、家族の負担を減らすにはとても満足のいくものではない。だから、1カ月5万円程度で24時間ケアしてもらえる「特養ホーム」 などを考えると、実態は「施設」にほかならないが、現在法律上在宅に分類される有料老人ホームなどへ対する人気が集まるのも納得がいく話なのだ。


3.向かうべきは「介護難民」のない社会
  我が国は、現在人口約1億2千6百万人、高齢化率が17%以上を越える高齢社会である。その高齢化の伸び率は、先進諸国の中でも高く、21世紀半ばまでには、およそ3人に1人の人口が高齢者となる計算である(表2)。そして介護を必要とする高齢者が増える一方で、現在介護者の50%以上は60歳以上と介護する人もまた高齢になり、その負担も重くなってきている。さらに、介護者のおよそ85%が女性という現実の中、働きに出る女性も増えてきており、家族だけで介護することは一層難しくなってきている。

出所:(財)社会福祉・医療事業団 http//:www.wam.go.jp


 このようにますますニーズが多様化する高齢社会の中で、当然のこととして新しい福祉ビジネスの芽もでてくるだろう。その一つに、自宅ではない「在宅介護の提供の場」として、グループホームの整備や、今後負担が確実に増えてくる働く女性に優しい介護環境の整備などがあるだろう。また、カラフルで遊び心があり、使い勝手の良い、福祉用具の開発なども必要である。こういったバリアフリーな、ユニバーサルデザイン的な考え方は、欧米の豊富な経験から学ぶこともできる。私たちは新しい発想で、「介護難民」のない新しい社会を築いていかなければならない。


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