Ecology
21世紀のソリューション
同志社大学経済学部教授 郡嶌 孝 氏 
エコロジー研究会・東京 基調講演より


 地球環境問題というのは、本当にいろいろなものがあります。これからの21世紀を通じてその中である問題が深刻になり、それについてある程度のsolutionを見つけると、また新たなる問題が出てきます。ですから、ある程度シナリオに沿ってシュミレーションをしておくというのは、環境問題を取り組む上で重要なことです。

 今回のエコロジー研究会は、「食」の問題についての報告が中心となっていますので、私は環境問題の専門家達が、環境問題を、どのような形の深刻さで捉えているのかということをまずシナリオ分析しながら、食料の問題というのが、どの辺でどういう解決の糸口を見出すところまで行っているのか行ってないのか、そういう話の流れの中で「食」の問題について触れたいと思います。

 実は、我々が21世紀を、深刻な問題として「環境の世紀」と言うのは、20世紀における我々人間と地球との関係が、ある意味いい関係を持てなかったからだと言えます。そういう面から考えると、21世紀には、20世紀の考え方、解決方法というのをそのまま21世紀の環境問題に当てはめても難しいということが分かります。20世紀の考え方をある意味では清算しながら、その解決方法を考えていかなくてはいけないということになります。

 20世紀は「戦争の世紀」であったとの見方もありますが、経済的側面から考えた場合、他の世紀に比べ20世紀はエネルギーと資源の大量消費、大量廃棄によって築かれてきた「"豊かさ"を繁栄した世紀」でもあります。そしてこの"豊かさ"のあり方そのものが、ある意味では大きな問題を抱えていて、それが「地球環境の悪化」という形で現れてきています。21世紀はそういう"豊かさ"から脱却するために、「@資源エネルギーは無限ではなくて有限であるということ、A地球は劣化する」これら2つを前提に我々の経済や豊かさを考えていかなくてはなりません。

 そうすると我々が21世紀初頭の環境問題で優先的に取り組まなくてはならないことは、20世紀型の豊かさのつけ、環境省の言葉を使いますと、「豊かさの負の遺産」をすべて清算することです。経済もバブルの・・つけを清算しようとしてなかなか抜け出せないでいるわけですが、地球全体としても、我々20世紀に地球と言う資産に元本割れという負債をどんどん地球に押し付けてきたので、もう一度、元本まで戻す作業をしなくてはなりません。そういう面で、当面は、廃棄物の問題と温暖化(廃熱)の問題がおそらく重要なってくると思います。

 廃棄物の問題は国際的な流れから言いますと、廃棄物の国外での処分は基本的にバーゼル条約(*1)やロンドン条約(*2)である意味では禁止されています。そうすると井上さんが示されたマテリアルバランスの中にも書かれていますように、日本は毎年20.4億tの資源を使い、輸出は1億tですから、それ以外はすべて日本の中で埋め立てなければならない問題が出てくる訳です。そういう面からも、もはや埋立地がないということで、循環型社会形成推進基本法に基づいて、Reduce、Reuse、Recycle という循環型社会を作っていく廃棄物についてのフレームワークができました。

 温暖化についてはご承知のように、1992年の地球サミットで気候変動枠組み条約にからスタートして、1997年に京都のCOP3で京都メカニズムができ、COP7である程度の合意が得られました。そして今年8月に南アフリカのヨハネスブルグで開かれる持続可能な発展に関する世界サミット、「リオ+10」において、批准されます。この流れを受ける形で国内では、省エネ法と温暖化防止対策法の2つによって国内の法的フレームワークが出来ることになります。そういうフレームワークをもとにした取り組みの如何によって、あとのシナリオは随分変わります。そういう面から言うと、温暖化に対する取り組みというのは非常に重要な問題となります。これが21世紀の初頭になります。

 次に2010年辺りですが、この頃、大きな問題になると考えられるのは、もはや我々は解決したと思っているオゾン層の問題です。オゾン層の問題というのは、ウィーン条約によって、国際的にオゾンを保護していこうという気運ができ、その取り組みとしてモントリオール議定書が87年にできました。ロンドンやストックホルムでの締約国会議において最終的にフロンの生産について、2000年までだったのが1995年まで前倒して生産をやめています。ところが使っているフロンの回収に、我国は随分遅れました。業界と地方自治体とそれぞれの住民の合意によってオゾンを回収する仕組みを作るため、「自主的な取り組み」のフレームワークを採用した結果、費用負担、その他諸々の問題をめぐって、なかなか回収が進みませんでした。

 国連のUNEPが、回収を怠っていくと2010年前後に一番大きなオゾンホールが起こってくるということを報告していまが、その中で、「日本が回収をしてないことに対する」という形で、日本を名指して批判をしております。こういう報告書が出るということは、日本の企業の無責任さということが非難されている訳です。2010年に近づけば近づくほど、日本に対する風当たりが強くなります。そういう危機感からか、今までの自主的な取り組みからフロン回収破壊法という法律がやっと出来ました。

 それから2020年あたりですが、20世紀の豊かさを支えていく上で夢の化学物質であったDDT、また我々が電力(エネルギー)を使っていく上で欠かすことの出来ない絶縁体であるPCBがあります。このような化学物質の毒性はすぐに減っていくわけではなく、そういう意味で、残留性のある有機的な汚染物質(Persistent Organic Pollutants)ということで、POPs条約が国際的に結ばれました。これは最終的に2020年までにPCBやDDTを地球上からなくしていこうという趣旨の条約です。

 外国においてはPCBやDDTの処理の方向が随分進んでおります。DDTは発展途上国では重要なものになっているので、そこをどうするかという問題もありますが、ある程度進んでおります。しかし、日本はいずれも物質も生産をやめてはいますが、DDTについては埋立処理後の問題、PCBについては、PCB分解を進める法律ができましたが、非常にコストが高い科学的な処理を行うという課題が残っています。

 このように考えていくと、20世紀のつけを清算するにしても、21世紀の初頭から最初の20年間は、20世紀の豊かさを全部清算をするために費やさざるを得ないということになります。そしてその後2030〜40年代に出てくる問題として、温暖化の関係もありますが、もっと重要なものとして水・食糧危機だと言われています。 温暖化により気候変動がおこり、結果として生態系が変わり、水・食糧危機に陥る可能性が高いです。更に、2030〜40年代になると温暖化だけではなく、鉱物のリンが、また50年から60年になりますと、リンだけでなく鉛や石油などが枯渇をしてくるということも食料の生産に大きな影響を与えていくことになります。

 現在国際的に認識され条約などが作られているのは、温暖化、オゾン層、POPs条約など20世紀の豊かさのつけをもたらした物に対する解決についてです。そしてそれが国内的な法律として、政府がフレームワークを作ることによって環境問題を解決しようというgovernment solutionが出来る状態がある程度作られていますが、2030年〜40年の水・食糧危機については、国際的条約のこれからの課題となっています。

 では、市場でのmarket solutionはどうしているかというと、既にフレームワークが出来たものに対しては、否が応でもmarket solutionの道を探していかなくてはなりません。しかし水危機については既にマーケットは動いています。いわゆるウォータービジネスという形で、多国籍企業(スイスのネスレなど)は、すべての水の水源を押さえ始めています。食料についてはバイオテクノロジーなどいろいろな形の中での同じようなbusiness solutionがあるのかもしれません。ある意味では遺伝子組み換え等々になると人類が生きていく上においては必要かもしれませんが、新たなもう一つの問題をもたらすという可能性も指摘されていいます。従ってここをどう取り組んでいくのかが重要ということになります。 government solutionにしてもせいぜい30年から40年しかカバーしきれず、問題が深刻になってからそれを話あって解決の方向を作ろうとしているのですが、地球益の方にたって条約を作るのではなく、政府を中心にして国際的な条約を作ると国益が優先になります。そこでビジネスに求めていくというと、更に先を読んで意外と2050年ぐらいまでを視野に入れながら動いています。

 しかし、政府や市場(ビジネス)の中だけで環境問題が解けるかということがここで問題となってきます。そこにもう一つのビジョンを持つNPOやNGOの役割があるわけです。E-Beingが、そういうことを視野に入れながら、環境問題の中で役割を果たすことが出来るとすれば、「同じ問題意識と価値観を共有する」そういうコミュニティを作っていくことだと思います。まさに本当の解決をもたらすためには、同じ価値観を有して、本当の解決策を求めていく、そのためには政府の立場、ビジネスの立場を離れ、その中に市民も入っていって、立場の違いを越えた形でこの問題に取り組んでいかなくてはなりません。そういうすべての関係者を集められるのはNPOでしかないでしょう。NPOの中にそういうコミュニティ(ネット上のコミュニティのようなバーチャルなものも含みますが)を作っていくことが重要なことだと思います。

 我々は新しいコミュニティを作る過程で、community solutionの基本にある信用・信頼できるようなメカニズムを、長期的な視野で作っていかなくてはなりません。そしてcommunity solutionの中で、個々の競争による利益(gain)を得るような形で環境問題に取り組むのではなくて、共に作っていきその結果得られる利益(profit)の形で提案し取り組みをしていければと思います。 冒頭言いましたように、「21世紀の環境問題」は、20世紀とは違う形のsolutionが必要となります。そしてこれからの環境問題を考えていく上で非常に重要な形となるcommunity solutionは、長期的な流れの中で確立されるものです。そいう面で、今までに活動を重ねてきた我々のコミュニティE-Beingの役割は、非常に重要な役割になるだろうと思います。

E-Being、エコロジー研究会の一層活発な活動を願って終わります。


(*1)スイスのバーゼルにおいて、一定の廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組み及び手続等を規定した「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」が作成された。(1992年5月5日効力発生、1999年12月3日現在締約国数は132カ国、1国際機関(EC))

(*2) 海洋汚染を守る為、船舶等から廃棄物や海洋投棄を国際的に規制する条約。1972年11月イギリスのロンドンにおいて締結されたもの。本条約では、廃棄物を「水銀、カドミウム、ポリ塩化ビフェニル(PCB)など、高レベル放射性物質などを全面的に投棄禁止」「低レベル放射性物質など投棄にはその国の政府の特別な許可が必要」「その他の廃棄物」3つのレベルに分類し海洋投棄 の規制を行っている。

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