エコロジー研究会
21世紀の食のあり方について
 大阪府立大学大学院教授 宮武 和孝氏 
8月23日エコロジー研究会 基調講演より


21世紀の食品産業は「安全性」「高品質・機能性」「環境への配慮」「リーズナブルプライス」、これら全てを満たさなければ産業として成り立たないという。
安全性についていうと、環境ホルモンという言葉が聞かれるようになって久しい。環境ホルモンは正式には「外因性の内分泌撹乱科学物質」と言われるもので、
正常に働いているホルモンに別の化合物がくっつき、外から影響を与える外因性の物質である。環境ホルモンには二つの作用がある。女性ホルモンであるエストロゲンとの類似作用、そしてアンドロジェン作用の阻害である。これらの影響は魚を使って見ることができる。あるオスを環境ホルモンのあるところで生育させると、普通メスにしか存在しない特殊なタンパク質ミダラベリンが発生するという。
本来ホルモンはその役目(組織の分化や成長機能の発達を促す)を終えると最終的には分解し消滅するものだが、環境ホルモンは一度作られると体内で分解・消滅することなくいつまでもスイッチが入った状態が続く。ほとんどの環境ホルモンは非常に油に溶けやすい性質を持っており、それは細胞の中に一度入ってしまうとなかなか抜け出ないということを意味する。また、肝臓の解毒作用で排出しやすい形にされても、腸管循環でその95%くらいが再吸収されてしまう。
例えばダイオキシンのような環境ホルモンは、食べ物だけでなく、大気、水、土壌など様々な経路から体内に入ってくるチャンスがあるというのが現状である。口から肛門に至るまで人間の体は大気と全部つながっていることを考えると、「食事をして口から肛門までの免疫力を高めておくこと」は極めて重要である。
中でも、繊維質のものはダイオキシンの排出を促すことが期待できる。繊維は消化されずそのまま糞便として排出される。従って、繊維質のものを食べると腸管循環サイクルの排出が増え、結果的にダイオキシンが速くでることになる。免疫力を高めるには「バランスのとれた食事をすること」、「充分な休眠・休息をとること」そして「笑うこと」が大切である。反対に、過労、ストレス、老化、極端な清潔志向は免疫力を低下させる要素である。
今後の食の生産流通システムには、LCAの配慮、PRTR(つまり化学物質をきちんと管理し指定された350の化学物質が入っていないものにする)、生産者が作ったものに対する責任を負うことが求められるだろう。そして、生産者と消費者の安全契約、行政によるその契約履行の管理、流通や食品産業による生産者と消費者の橋渡し、という“協働”が鍵となるだろう。

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