フィランスロピー研究所 今月のありがとう
フィランスロピー研究所
フィランスロピー研究所 今月のありがとう
2016年4月のありがとう
イメージ画像 安全の思想

 今となれば10数年前だが、六本木ヒルズ54F森タワーで痛ましい事故があった。
 回転ドアに挟まれた子供さんが亡くなられた。
 あのタワーの回転ドアは2.7tの自重があり、ドアの挟み力は8000N(ニュートン)もあった。
 子供の頭なら1000N、大人でも2000Nの力を受けると致命傷となる。

 この回転ドアは、制御安全の手は打たれていた。
 センサーは足元と天井に取り付けられていた。
 しかし子供が前傾姿勢で入ったため、足元センサーは作動せず、また天井センサーは地上より120cm以上のものに反応するよう設計が変更されており、117cmの男の子は感知されなかったのである。

 天井センサー設定に問題があったとしても、事故は起こるべくして起こったと言える。
 なぜなら、挟み力が1000〜8000Nもの殺傷力を持った回転ドアそのものが問題だったのである。
 この回転扉のもとは、オランダのブーンイダム社で、日本でブーン・タジマという新会社が設立され、日本にやってきた。
 しかし会社の解散などにより、当初の安全仕様の思想が抜け落ちてしまったのである。
 つまり重厚感や耐風圧強度を出すために、骨材に鉄などを使い、重くなったのである。
 もともと軽く設計されて本質安全に応えていたものが、センサーによる制御安全に取り変わったのである。
 制御も大事だが、本質安全の軽量化を貫かなかったことが、大事故となったのである。

 企業等は、制御安全だけに頼らず、本質安全に取り組むべきである。
 日本において、1960年から子供の死亡原因は、ず〜っと不慮の事故が第1位なのである。
 子供の好奇心には、ちょっとやそっとの制御安全で防ぐことは困難である。
 勿論親御さんの注意義務があるとしても…

 最近、ベビーカーが電車のドアに挟まれる事件が起こっている。
 ベビーカーの車輪を挟んだまま電車が出てしまっている。
 電車のドアは吊りドアであり、上が締まれば赤ランプは消える。
 ベビーカーの車輪が挟まった位では、赤ランプはつかないのである。
 ベビーカーメーカーとしては、電車に乗る時はベビーカーを使わない様にと説明している。
 しかし現実に事故が起こっているのであるから、電車のドアのあり方を変えよということはすぐには無理であり、ベビーカーメーカーが対処すべきなのである。

 たぶんこうしたちょっとした事故を放っておくと、ハインリッヒの法則(1対29対300)のように、300のヒヤリとしたミスがあれば29の中事故があり、29の中事故のあとに1の大事故が発生するという恐ろしいものがある。
 世のリーダーたる人々は、こうしたことをよく弁えて、小さなヒヤリから手を打つべきなのである。

井上 健雄

フィランスロピー研究所
Copyright (C) Philanthropy Institute co.,ltd. All Rights Reserved