個性と貢献 |
昨日(H25 8/22 (注)ニューヨーク8/21)イチローが日米通算4,000本安打を放った大ニュースもあり、今回、アメリカの野球物語、「マネー・ボール」を上梓しているマイケル・ルイスを取りあげる。
1990年代末、メジャー球団の中で最貧球団であったオークランド・アスレチックスのゼネラルマネジャー、ビリー・ビーンが、少ない予算の中で統計的データを駆使し新しい野球づくりをなしとげた、血涌き肉躍るお話である。
そのひとつとして、レッドソックスのキャッチャー、スコット・ハッテバーグをスカウトした経緯を紐といてみよう。
ボストン・レッドソックスで、6年間坐っていた男を、立って守る一塁手に起用したのである。
彼を打席に立たせる為に。
打率は2割7分そこそこだが、しぶとく球を見きわめ、四球を選び、有利になれば無駄なことをしない…そんな性格である。
レッドソックスでは、まあまあ打つが積極性に欠けるキャッチャーだと評価されていた。
一方、アスレチックスは、彼を効率よく得点機会を作れる選手で、いちおうキャッチャーもできると考えたのである。
つまり、得点機会が作れる選手を最重要視し、ポジションは次の課題とこだわらなかったのである。
どんな社会にも、冷酷非情な生態系がある。
選手として弱点があると、そこを攻めてその選手を無能化するというものだ。
ハッテバーグは、自分の打てる球を調べ、どんな球が打てないかを頭に入れて、打てない球はファウルで逃げたのである。
これが厳しい生態系の中で生き残った理由なのである。
しかしレッドソックスのコーチ、ジム・ライスは、最初から打てと皆の前で注意した。
「君は初球打ちの時、5割なのに、2割7分でいるのはどういうことだ」と。
ハッテバーグは打てる球が初球に来た時だけ、初球を打っているだけなのに。
ここでコーチの言うがままに初球から打つと、チームに貢献できないことが分っていたから、打たなかったのである。
コーチは結果に執着し、ハッテバーグは過程を大事に考えていたのである。
誰もがチームでの自分の価値をきちっと自己評価し、それを守るプロセスをしっかりやり遂げれば、成果になるということだ。
基本的に自己の個性をしっかり磨き抜くことが、チームでの存在価値となるのである。
とは言え、その個性がチームに合っていなければ、無用という状況になる。
この辺りを理解して、本当の個性的な前進をして欲しい。
井上 健雄