ロゼトの奇跡 |
ロゼトについて語ろう。
古き話であるが、今、尚、色褪せない話である。
いや一層、心すべきかも知れない。
ロゼトとは、アメリカ・ペンシルヴェニア州の人口千数人の田舎町である。
ここは1950年代から1960年代にかけて、心臓疾患の死亡率が近隣の町に比べ極めて低く、全国の注目を集めていた。
この低い死亡率は、喫煙、食事、運動などの要因では説明ができず、奇跡と呼ばれたのである。
その後、研究が進められ、学術論文をはじめ、「ロゼト物語」(1979年)などが発行された。
それらの至りついた結論は、「住民の共通の目的意識、連帯感」こそが奇跡の中身だと断じたのである。
つまりロゼト社会全体が、一個人、一家族の枠を超えて、大家族のように機能し、コミュニティに支えられているという安心感を与え、心筋梗塞や突然死も極めて低いものとなったのである。
イタリア系移民の町ということでもあり、少数民族として団結し生きてきたのである。
誰一人見捨てられないという社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)が充実していたのである。
だが残念なことに、1960年代以降は彼・彼女らの一体感・平等を重んじる価値観がなくなるにつれ、死亡率が上昇し、周辺コミュニティとの価値ある差をなくしたのである。
こうした例を2つ紹介する。
寿命 | |||
男 | 女 | ||
フィンランド語を話す人 | 69.2才 | 78.1才 | →マジョリティ |
スウェーデン語を話す人 | 77.9才 | 82.9才 | →マイノリティ |
この両例とも、住民の絆の強弱が寿命に影響を与えたのである。
このように見てくると、現代のグローバル化、資本主義の進展、核家族化、お一人様化などは、人を平安にせず、まだまだタイムラグはありそうだが、寿命の短命化、精神の不安定化を加速させているのかも知れない。
こうした意味あいにおいて、私たちの健康、寿命、生き甲斐等も社会的な絆の中で育まれていることが分る。
つまり私たちも一人ひとりでなく、それぞれが所属する団体をソーシャル・キャピタル形成し、サステナブル構造に仕上げていく所に、私たちの健康や希望が、そして地域社会の平穏が生まれると考える。
私たちの仕事の一つひとつの積み重ねが、ソーシャル・キャピタルになれば最高です。
井上 健雄